フィラリア症 カービーちゃんの場合
10月20日に初診のチワワのカービーちゃん2歳に本日12月5日 劇的な変
化が現れた。
大静脈症候群(vena cava syndrome)というフィラリア虫体が本来の寄生部位で
ある肺動脈ではなく、心臓内や付近の大静脈に寄生することによって生じる重
篤な心不全症状で転院してきた子であった。
エコー図の左下が右心房でそこにパスタを斜め切りしたような虫体が見える。
長径4センチ程度の心臓におそらく1匹の虫体のみであろうと思われる。
このときの聴診では三尖弁口部で心内雑音が聴診器をあてないでも外まで聞こ
えていないかと思うくらいの大きな雑音が聴取できた。
利尿剤や抗炎症量ステロイド剤等の投与とケージレストで、翌日には血色素
尿が改善し、元気食欲が出てきた。
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教科書的な治療方法はと言うと緊急的に虫体を摘出する、ということになる。
飼い主さんもさきの獣医師にそう言われて転院してきたそうだ。
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さて、ここで手術する場合の問題点として、
体重2キロと小さな体で一番小さいカンシがアプローチ部位である外頚静脈に
挿入できるかどうか、、。
個体差があって以前これより大きい体格の子でも外頚静脈の径が小さくて古
いタイプのブラシと言われる摘出器具を使わざるを得ない子もいた。
するとやはり回収率はよろしくない。
もちろん長さ30センチの虫が入って重篤な状態下での手術には相当の危険
が伴うのは想像に難くない。
ちなみに今現在カンシもブラシも市販されていない状況で、この病気の治療に
ついてはまさにシリスボミの状況であり、ましてや駆除剤のイミトサイドもこの春
から国内輸入販売中止となった。 媒介蚊の多い沖縄でドーシロトイウノ。
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一方で教科書的以外の経験的な治療法として、
1.このまま投薬しつつ安静維持しながら、本来の肺動脈に戻ってくれるのを待
ち この段階で成虫駆除剤を使用する
2.やむを得ず動かない場合、虫体が心臓内に存在する状態でイミトサイド注射
剤により成虫駆除する。
手術する場合しない場合のそれぞれについて飼い主さんにこれまでの症例を
挙げながら多くの時間をかけて説明した。
結局心臓から出て行かないため、その状態での成虫駆除を選択され11月19
日に第1回目のイミトサイド注射剤による駆除を実施した。
この間約1カ月の間は利尿剤・強心剤・抗炎症量ステロイド剤等の投薬と安静
維持で状態を整えている。
国内販売していないためにやむなくオーストラリアから個人輸入した
イミトサイド注射剤。
やっぱりこの薬がないと沖縄では犬は診れない。
注射後1週間で極端に全身状態が悪化して来院したが、このとき心内雑音は
初診時より小さくなり、虫体のエコーレベルも若干低下していた。
飼い主さんには虫体が駆除剤により変化を受けてこのあと血流に乗っかって、
流れて行くかもしれないとお話しつつ、対症療法で乗り切ってくれた。
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本日検診時に聴診器をあてたわたしからの驚きの声を聞いて飼い主さんご家
族がわたしの顔を覗き込んだ。
「心内雑音がなくなりました、薬によって変化した虫が心臓からいなくなりまし
た。」
一瞬間をおいて「ワー、ヨカッタ」と感嘆の声が診察室に広がるが、その中心に
いる当のカービーちゃんだけがキョトンとしている姿がおかしかった。
このあとは初回注射から4週間後に今度は3時間間隔の2回注射で残りの虫
が駆除されてその後内服をさらに2週間継続して終了となる。
ようやくゴールが見えてきたが、これまでの治療経験上、うまくいくと現在2歳の
カービーちゃんはこのあとほぼ寿命を全うしてくれるものと思われる。
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