釣り針事件
やはり暑い夏は犬の受難の季節である。
一昨日、釣り針にエサがついているのを飲みこんで今日から食欲がない、
との主訴で琉球犬とおぼしき立派な体格の中型犬が来院した。
胸部食道に停滞する大物仕掛けの釣り針である。
いずれの飼い主さんもやってしまうことだが、引っ張ったが取れずにその後糸を切
ってしまった、という。治すこちら側としてはどちらもしてほしくないことだけれど。
内視鏡で確認すると針がまったく見えずに、糸だけがチラリと見えている。残りの
糸はほんのわずかである。こうなると口から回収するのはかなり困難となる。
やむなく頚礎で深い位置にある食道を切開し、この時自作した透明なプラスティッ
クチューブを加工したものを硬性鏡代わりに使用して、糸の断端をカンシで掴むこ
とまでできた。これに縫合糸の太いものを継ぎ足すが、糸が短いので至難であっ
たが、釣りの心得のあるDr.タケバヤシが最低限で引っ張り力に耐える結びを施す
この時加工したステンレスパイプの中に糸を通して、糸を引っ張りながらコンッと
押すがまったくもって微動だにしない。もう少し強めにグイッと押すと針が粘膜から
外れた感触が伝わった。ここでステンパイプを気管チューブに替えてカフを少し膨
らませることによって再度針先が粘膜に引っかからないようにしながらゆっくりと引
っ張って来ると針先が見えてきてスタッフ一同ホッとする瞬間であった。
残っていた糸はわずかに5-6cmというところか。糸さえ長ければ外套になるもの
を工夫することによって過去に胃内に停留した針も口から回収できたのだけれど。
この症例で開胸手術をした場合の飼い主さんと動物の経済的・身体的負担やら
術後の合併症などのことを考えると、より簡便な頚部食道からこのように回収でき
てよかった。
このあと縦隔洞炎と切開部位も含めた食道粘膜の創傷治療に注意しなければ
ならないが、PRP注入を併用済みなので、安心感がちがうものである。
(Small Animal Surgery 2nd ed. Theresa Welch Fossum)
教科書を振り返っているとこんな怖い針が! この針はこれまで経験していないし、今後も遭遇しないように祈るばかりである
(そういえばDr.Fossumの講演を10年ほど前に本土に聞きに行ったことがある。
たいへん美しい女性獣医師でUSAの大学教授。講演内容はほとんど覚えてい
ないが、美しい女性だったことは死ぬまで忘れないはず。)
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