フィラリア症の治療
月に1回の投与で予防が可能になったフィラリア予防薬が世に出て、20年は経
とうというのに、沖縄ではいまだに本病にかかって重篤な状態で来院する犬が多
い。
そういうわけで、治療薬のイミトサイドが手放せない。
メラルソミン2塩酸塩という薬剤名で、国内販売されて15年くらいになるだろうか。
白色の粉末を注射用蒸留水で溶解して使用する。
ただし、この能書には、この薬の使用経験がない獣医師は二の足を踏むこと
になるほどに、おそろしいことが書かれているのである。
駆除した結果、死んだ虫が肺動脈末梢で塞栓を来して、虫も死んだが犬も死ん
でしまう、というようなことが延々と書かれている、ていねいな能書である。
メーカーの立場もよく理解できるのだが。
こんな虫が肺動脈に長いと5-6年寄生して、24時間蠢いていると、当然動脈
硬化やそれに伴う肺病変を形成して本来のスポンジのような肺全体が硬くなり
さまざまな病態を起こすことになる。寿命が尽きた虫は死んで行き場所がなく
先端で詰まり、と、ますますひどい肺の状態が持続して全身状態にまで影響を
及ぼすことになる。
さて、治療方法であるが、American Heartworm Society という米国の研究会
がある。
http://www.heartwormsociety.org
ここに、治療方法として、このイミトサイドを2段階3回投与すると安全に駆除で
きると書かれている。1か月間隔で半分ずつ虫を殺して、一度に起こる体の負
担を半減しようという考えである。能書には一度に3時間間隔で2回注射する方
法が書かれている。
わたしたちの施設では、これに投与前と期間中と後に延べ2ヶ月間ほど心臓・
肺の状態を整える複数の内服薬を併用することによって、より安全に駆除して
いて、安静指示さえ守ってくれると、呼吸速迫や咳、腹水症まで呈している症例
も含めて、100%近くの満足のいく結果が出ている。
この方法で先月3月の1ヶ月間に12匹の犬の成虫駆除を実施した。
この間急性症で吊りだし手術をしたのは1匹なので、イミトサイドにより救命でき
ている犬が圧倒的に多いことになる。
ちなみに米国では年間使用量は数十万本であり、国内では数千本とオーダー
の違いがある。これは施設の責任者が使用しない場合、次に経験する獣医師
が当然先細りとなって、ますます使用できなくなっている実態があると思われ
る。
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