心臓が悪い犬の歯科処置
心臓が悪くて、薬を処方されているピットちゃん 11歳が歯周病で困って来院し
た。
かかりつけの病院では、心臓が悪いので麻酔は危険という理由で、数ヶ月前に
ペンチで悪い歯を抜かれた、というエピソードを飼い主さんが話してくれた。
キャイーンと甲高い声をあげて泣いた、とつらそうな表情で訴えられた。
聴診してみると、無麻酔でペンチで歯を抜いた獣医師の処置はなんら間違いの
ない選択であったと思えるほどに、これ以上ないくらい心雑音がひどい。
これまで、失神もなく、咳もさほどでないし、舌色も悪くない。なにより飼い主さん
の強い希望に押されて、1週間内服投与の後に麻酔下での歯科処置をすることに
なった。
充分酸素化した上で、吸入麻酔のみで導入・維持して、心電図をとると、たしか
に左心肥大のサインは出るが、QTCという心不全の指標値は案外低い。
次に心エコーを撮ってみると、
左心室がこれ以上ないくらい拡大し、箱型に変形していて、円形心となっている。
前尖という前に位置する弁が腫れて、制御のない動きをしていた。これは弁を引
っ張る腱索という線維が切れて、弁がブヨブヨになっている合図である。
別の断面で見ても同様であった。収縮時には左心房側に両弁とも逸脱していた。
本来一方通行であるはずの血液の流れが、逆流している。その程度も重度であ
る。心臓の本来のポンプ機能が果たせなくなってしまっている状態だ。
ヒトでは弁輪縫縮術や腱索再建術など、体外循環装置を使用しての大手術とな
るが、犬では内服の組み合わせで残りの機能を補充していくことになる。
ここまで麻酔の安定を見ながら、歯科処置に入ったが残っていた歯、十数本は
歯周病でやむなく全抜歯を余儀なくされた。
下顎については、長年来の歯周病で下顎骨がペラペラに薄くなっていて、わず
かな衝撃で骨折を来たしそうなほどである。M1という歯を抜くときに歯冠を分割し
てから分離された歯根をそれぞれ抜くなど、なんともこちらの心臓にも悪い、神経
を使う症例であったが、元気に日帰りできて飼い主さんも満足してくれたようだ。
昨日午後、時間、天候等タイミングが合って、2週間ぶりに数時間ミニツーリン
グにでかけてみた。
あいかわらずに、ドロンコになってダートで遊ぶオジサンライダーであった。
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