ギプスの巻き方Part.2
ギプスの巻き方について、もう少し詳しく知りたい旨、問い合わせをいただいた。
他には、「何度かやってみたけど、皮膚・筋肉がズルズルに傷んだことがあって
それ以降こわくてできない」 という意見もちょうだいした。
わたしの場合、卒後、石膏ギプスからスタートした。
若い獣医さんからは、何年生きてるの? との声が聞こえてきそうだけれど。
石膏を水で溶いて、ガーゼ包帯で患部を巻いて、その包帯にさらに石膏を摺
り込むという、今から思えば、おそろしく原始的な作業であった。
学生時代に、土木とか、建設現場とか、アルバイトもいろいろやったけれど、
そのあたりの現場に近い雰囲気の作業であった。
でも、なぜだか摺り込んでいる時のこころもちは、やはり「手当て」している、とい
う充実感があったのを、おぼえている。 それは今から約30年前のことである。
その数年後から、現在のポリウレタン製(プラスチック)キャスト材が主流となっ
てきた。
水に漬けて、数回揉んで、下巻きの上に巻いて、モールディングしているうちに
固まる、という、石膏ギプス時代のわたしからは、それはもう画期的な製品が発明
されたものだと、たいへん感動したものだ。
石器時代の人がプラスチック製品を見てしまった、のと同じくらいの感激といえ
ばよいのだろうか?
さて、今の話だけれど、そのキャスト材は、だいたいこれ一種類ですんでいる。
いろいろと試してみて、リジッド感とエラステイック感のバランスがよいと感じる
製品だ。
3MのスコッチキャストプラスJの幅5センチメートルのもの
「2」が最小幅でインチのこと。 小動物用に「1」があってもいいのだけれど、と
一度3Mヘルスケア・ジャパンにおねがいしたことがあったが、、、、。
やむなく、小さい動物には、封を開けてすぐに幅をカットして、丸めてから巻いて
いく、ということもやっている。
下巻きは
同じく 3Mの製品で、この写真のもの
下巻きもキャスト材も3分の2重ねを基本で巻いている。
強度的に薄くて良い症例では2分の一重ねで巻いている。
もちろん下(足先)から上へが基本で。
下巻きも、キャスト材もきつく巻かないでゆるめに転がすように巻いて、このモー
ルディングという作業でキャスト材を馴染ませていく。このとき、キャスト材の網
目がつぶれて目が埋まっていき、強度を増す、という設計になっている。
あらかじめ、レントゲン像でどちらにどのように力を加えると、骨折・脱臼した
方向へ抵抗できるかを判断しておき、そのこころもちでモールディングを加える
この症例は肘関節脱臼で、再脱臼防止のために強く矯正的モールディング
をかけた症例である。上腕骨遠位が押され、肘頭が押され、というのがよく
判るモールディングである。
肘関節の脱臼
復位後に矯正的モールディング
レントゲンの陰影が黒っぽくなっているところがギプスの凹みの部分
翌日に肢端が腫れることがまれにある。
このときは写真のようなギプススプレッダーがあると便利だ。
ギプスに縦割りを入れて、スプレッダーで開張・徐圧してやる。 これだけで
再キャステイングの必要はない。割がそれ以上拡がるのを防ぐ目的でエラテ
ックスやベトラップでその上を巻いている。
もちろん腫れた肢先は充分に揉んで、貯留したリンパ液を上方へ流し込むこ
ころもちで、腫れをとってやるといい。緩めにギュッギュッと動物と握手してやる
感じだ。
「別冊 整形外科 」No.41 ’02.4.25 南江堂 (P40-42) 小西英樹ら
この場合、硬化後直ちに割を入れておくことで、徐圧他、調整機能をあらかじ
めギプスに持たせておく、というコンセプトの報告だった。
ギプスカッター
これで、縦割りも可能だし、縦割りを1センチ幅で2本入れて、ちぎっていくと
ギプスが外れるので、高価な電動カッターをわたしは持っていない。音で動物も
驚くし。
ちなみに、ストッキネットは使用していない。
動物へのキャステイングのこつは
「緩めに巻いて、繊細かつ大胆にモールディングをかける」
というところか。
うまくすると、理論的には究極の生物学的骨癒合ないしは組織修復が果たせ
るのだけれど。
快適なアスファルト道路はいくらでもあるのに、なぜかこういうガレた道を見る
につけココロが踊る。
もう付けるクスリのないオフロードシンドローム患者のわたし?
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