劇的ビフォー・アフターな創傷治療
創傷の治療方法が変わってきた。
子供のころ、野球少年だった田中少年は毎日すり傷だらけの体で、練習あと
に出かける近くの銭湯では、いつも熱いお湯に浸かっては飛び上がっていたの
を昨日のように思い出す。
キズはそのうちにカサブタになり、カサブタが取れると、ぱっと見、きれいに治
っているようすであったが、時にいつまでも治らずに、周りが真っ赤になって膿を
持つことも多く経験したが、まあそんなものだ、と子供ゴコロに思っていたもの
だ。
さて、その田中少年のおよそ40年後のここ10数年のうちに、創傷の治療方
法が変革してきた。
これまでは、キズの手当てには赤チンやイソジンなどで消毒をして、乾かす、
そしてそれを繰り返す、という方法が一般的であった。
この方法はここ100年くらいそれで当然、と信じられていた方法で、このように
その当時の大勢が支持する方法や考えをパラダイムというそうであるが、それ
が真実か否かは後に判明するのである。 天動説と地動説のごとく。
(創傷の閉鎖湿潤療法の提唱者 医師 夏井 睦先生著書より)
消毒はばい菌も殺すが、大切な身体の治癒能力も殺す。キズを治すために、
あるいは、ばい菌と闘うために現場に駆けつけた細胞や、サイトカインという指
令物質を消毒薬が根こそぎ痛めつけてしまうのだ。
そして、その後乾燥させてしまうと、細胞も干上がり、サイトカインネットワーク
を作ろうにもその場がない。
キズは最初深い欠損だと下から肉芽(ニクゲとかニクガという)という組織がで
き、その後周囲から上皮が埋まってくる。浅いキズだと上皮化だけでキズが治
る。
その本来の治癒機構を助けるのが閉鎖的な湿潤療法である。
いまわたしはキズを見ると、いかにしてウエットな状態を保って治していくか、
ということに考えが尽きる。
しっかり水で洗浄して、同時に不要な壊死・感染組織を除去(デブリドマンor
デブライドメント)し、湿潤環境を保ち、浸出液のコントロールをして肉芽増殖と
上皮化を待つ。ここに少しの工夫を加えるだけ、と言ったら簡単すぎるけれど、
そんなこころもちで治療している。
血行、細胞、サイトカイン、支持組織を大切にして、いわば再生医療的な考え
方をそのまま生体に適用している方法といえる。
このあとこのブログでいくつかの例をちょっとずつ紹介していきたいが、今回
はちょっと怖い写真だけど、ネコの手(アシ)が輪ゴムに縛られて、グローブのよ
うになった症例を紹介する。
食い込んでいた輪ゴムを除去して、水で洗浄すると、ケガを見慣れたスタッフも
顔がヒキツルほどのグローブ手(実はアシ)。 腱見エテルシー、ミタイナー
といまごろの若い子達はいうのだろうなあ。
さすがに閉鎖だけでは血行改善不足と判断して、血管内皮細胞成長因子も
含まれるPRPを併用適用する
本人(本猫)の血液から加工したPRP(多血小板血漿)ゲル
これを縛創の上に貼着させた。
このときは食品用ラップで閉鎖した。この上に血行を阻害しないように、そして
余分な滲出液が吸収できるように、というこころもちで保護材料を上乗せする。
なんと1週間でここまでの回復。
ここまでくればただ閉鎖環境を維持できれば治癒可能だ。
ちなみに、上皮化を待つだけでよいような、小さいキズになってくると
白色ワセリン塗布で閉鎖環境の代替となる。
ヤンバル路 イタジイの中に紅葉か? と見まごう、松くい虫の被害松。
以前からこれを見るとココロが痛む。被害を食い止める有効な手立てはないも
のだろうか?
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