歩けてよかったね、ゴンタくん
8月6日(木)
台風8号が沖縄本島に接近。大型ゆえに中心ははるか南方の海上というの
に雨、風ともに強く、午前中はなにか駆け込みだったのか、たいへん混雑して
バタバタしていたのが、風が強さを増してきた午後に入っては、うそのように病
院が静かになった。
外は大荒れ、院内は静か。こんな時はあれこれ思い起こすが、先日来ていた
ミニピンのゴンタくんを紹介したい。
ゴンタくんは昨年暮れにまだ7才だというのに、急に立てなくなって本人(犬)
ご家族ともおおいにあわてた、本来はとても活発な壮齢の雄のミニピンだ。
病名は変形性脊椎症で、この子の場合特に頚椎で強くそれが起こり、なんと
脊柱管という、脊髄が走る脊椎1個ずつの連続の管の下側に脊髄を圧迫する
ような骨のトゲができてしまい、これが頚部の脊髄を強く押して四肢麻痺を起し
てしまったのだ。
想像するだけで痛そうで、ほんとうにつらく気の毒な状態である。
写真はその時の頚椎の様子 変形が強く、写真中央C4-C5間の骨棘形成
著明
当院に転院したのが症状発現から1ヶ月ということもあって、手術療法はせず
しばらく、コンベンショナル(いままでどおりの伝統的な)な治療法を開始、継続
するも状況は改善を見ないままに絶望感の方が強くなってきた。
一方で数年前より獣医再生医療のJ-ARMという会社の指導の下に再生医
療の治療をしていて、そのうちのひとつの細胞治療である骨髄間葉系幹細胞
培養をすでにホサナ動物病院のDrタケバヤシがトレーニング済みであったとい
うタイミングもあり飼い主さんにこういう方法もあるが、やってみないとわからな
い、結果はお約束はできないが、と慎重にお話させていただいたところ、これま
での治療効果に今後の悲観的な結末を想像されたのでしょうか、ダメもとでも
是非試してみたい、との篤い希望をわれわれに訴えることになった。
せまい部屋に機器をギュツと押し込んだ細胞加工室
ゴンタくんの骨髄液を採取し、これを細胞加工室にて培養を始める。これまで
経験してきた、自己リンパ球療法の培養と違って、フラスコの底のカベにシート
状に生えてくるという増殖の仕方だ。
1回目、2回目と残念ながらどこかの時点で菌混入があったのか、中止になっ
た。飼い主さんに理解を得ながらの3回目、ようやく増殖が成功、軌道に乗り、
移植する日がとうとうやってきた。3月14日に麻酔下で、増殖回収された幹細
胞を半量をくも膜下腔へ脊髄針にて、半量を静脈内に投与して、あとは神様に
祈りを奉げたのはいうまでもない。
移植までのこの間、飼い主さんは毎日指示通りのリハビリテーションを継続し
てくれていた。
さて、移植7日目頃に起立しているのを飼い主さんが見つけて、ゴンタ!と叫
ぶとパタッと倒れるということを繰り返しているうちに、移植より17日目の3月3
1日、ふらつきながらもある程度自由に歩けるようになった!
3月31日来院時 骨髄液採取のあとが痛々しいがしっかり立っている、3本足
でも平気?
8月4日にワクチン接種で来院したときの様子 なんでもなかったかのような
元気な様子
ここで紹介させていただいたゴンタちゃんは経過から幹細胞移植により好転
した、と結論付けて良いと思う(慎重です)。
他の子も同じように良くなるかというと、病勢、年齢、幹細胞の増殖の程度
などなど不確定要素が多いので一概には言えない、というのがわれわれの
正直な本音です。しかしこの1例はわれわれにこの細胞治療を継続、発展
させていく大きな原動力になります。
根気強くわれわれを信頼してお付き合いいただいた飼い主さんと、細胞治療
をご指導いただいているJ-ARMの岡田先生、伊藤先生、そして、治療の詳細
に亘ってご指導いただいた大阪の岸上義弘先生に感謝したい。
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